日本には現在様々な「救急法」を教える団体があります。消防機関のような公的機関に始まり、わたしたちWMAを含む様々な民間の機関が目的や用途に応じたプログラムを提供しています。
WMA Japanではこのうち、救急車や病院アクセスまでに時間を要する環境や場所、つまり「どんなところでも人を助ける救急法」が得意分野の団体です。実は私たちの組織は北米に本部を置くWMA Internationalという世界的な団体の日本支部です。現在31か国で全く同じカリキュラムが運用されています。
WMA Internationalが産声を上げたのは、北米メイン州のハリケーン島と呼ばれるこちらの離島群です。この島ではOutward boundという、これまた世界的な冒険教育団体が、体験を通した人間教育のためのプログラムを提供していました。離島の小島や海上でキャンププログラムを行い、人の内面や成長に語りかけるのです。
当時、こうしたプログラムを提供する野外インストラクターには悩みがあったそうです。それは、小島や海上で受講生にケガや病気が発生したとき、本島にあるクリニックにアクセスするには時間がかかる。さらに大きな総合病院を求めるともっと時間がかかる…。当時北米でも都市型の救急法しかなかった時代、受講生の安全を守るべき野外インストラクターたちはこの課題に直面していました。
そんな悩みに医療の分野から、革新的で全く新しい切り口の救急法を提供した人たちがいます。Peter Gorh医師、そしてDavid Johnson医師らです。
彼らは医師の視点から複雑で難しい医療を非常にシンプルにまとめ、医療従事者でない登山ガイドや野外インストラクターのような「一般人」でも分かりやすく、評価判断をしやすいカリキュラムを作りました。
さらに十分な専門機器やスタッフがいない環境で、かつ病院まで一般人が長時間のケアをしなければならない時でも、継続して傷病者の判断と処置ができるように教育活動を始めたのです。
このカリキュラムは時の野外インストラクターたちに好評となり、次第に多くの野外活動関係者、山岳ガイド、アウトドアガイドやインストラクターを中心に広がっていきました。約40年ほど前、1981年に創業したWilderness Medical Associates (WMA)の始まりだと言われています。
同時期、北米では様々なWilderness First Aidプログラムを提供する団体が産声を上げました。これらの団体や学術者が集い、野外医療専門のWMSと呼ばれる学会まで立ち上がっていきます。WMAは初期から主要構成団体として関わり、業界の発展にも貢献してきました。
やがて北米で野外救急法は広く認知されることとなり、今では登山ガイドや山岳ガイドの資格取得を目指す人の必須資格になっています。その他キャンプ業界や野外教育者など、アウトドアで活動する人の資格要件などに位置付けられています。
WMAカリキュラムはその後、世界の同じような環境で必要な救急法を求める人々の願いを叶えるために国境を越え、海を越えて広がっていきます。現在では31か国で運用されていますが、どこの国で受講しても同じカリキュラム内容を受講できる、発行される資格は31か国どこでも同じステータスであることが特徴です。
日本では2007年に第1回目のWMA講習が開催され、その後独立した日本支部WMAJが立ち上がり、年間500~700名近い国内受講者の方に支持され、着実に広がりを見せています。近年では国内の公的救助機関や公共施設の職員、自治体が発行するガイド資格の指定要件などに充てられるなど、医師が作ったカリキュラム内容には間違いのない実績があるわけです。
現在WMA Internationalのカリキュラムディレクターでもあるデイビッド医師は、絶えず最新のエビデンスを検証・検討し続けています。世界中の論文を読み、カリキュラムを常に見直し、より合理的でより効率が良く、救助者や傷病者の安全性を高めてくれる方法を検討し、必要に応じて随時カリキュラムをアップデートさせています。
デイビッド医師は、年に1度のペースで来日をしており、日本国内の医師や医療従事者とカンファレンスコースを開き、専門家同士の意見の交換など、世界の医師たちとも情報交換をしながら検討し続けています。
WMAカリキュラムはこうした医師たち、救助の専門家による不断の努力によって、つねに最新のホクホクの状態にされ、受講者のみなさんの元に届いているのです。
「どんなところでも人を助ける救急法」WMA International/ WMA Japanのカリキュラム、ぜひ一度足を運んでみませんか?いまはオンラインを中心に受講できるコースも開設中です。
大学生や一般の方からアウトドアガイド、災害防災関係者、救助救急関係者、医療従事者、アウトドア愛好家まで幅広い受講者がいることもまたこの救急法プログラムの特徴といえるでしょう。
今日は、WMA Internationalの生い立ちを、少し知っていただきました。
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